妊娠中は色々な体の変調が見られます。
赤ちゃんを宿すため、子宮や胎盤をはじめホルモンなど体の中の変化も著しいのですが、それに加えて、腰痛やむくみなど外側に起こる変化もたくさん見られるようになります。
そんな体の変化や不調の一つとして、よく耳にするのが筋肉痛のような痛みです。背中や足などに筋肉痛に似た痛みが生じることがあります。
そこで今回は、
・妊娠中の筋肉痛のような痛みの原因は?
・妊娠中の注意が必要な痛みとは?
・妊娠中の筋肉痛のような痛みを和らげるには?
といった方に、妊娠中に起こる筋肉痛のような痛みの原因や対策について詳しくご紹介します。
この記事の目次
妊娠中の筋肉痛のような痛みとは?
筋肉痛は、普通は運動など体を動かすことで痛みとなってあらわれるものですが、妊娠中にこのような痛みがあると、「そんなハードな運動をしていないのになぜ?」と思ってしまいます。
妊娠中は、ただでさえ心配の多い時期でもありますから、「何か病気が要因しているのではないか?」「赤ちゃんの異変が痛みとなってあらわれているのでは?」「無事出産できるかしら?」など色々なことを考えてしまいます。
この筋肉痛のような痛みは、妊娠中にはよく見られる痛みで、決して珍しいことではありません。
妊娠初期に痛みを訴える方もいれば、妊娠中期を過ぎ、お腹が大きくなってくるころから痛みを感じる方もいます。
痛みを感じる部位は人それぞれ違っており、足やお腹、腰やおしりなど色々な場所に見られます。
その原因とはいったい何なのでしょうか?次からは筋肉痛のような痛みの症状と原因について考えていくことにしましょう。
妊娠中の筋肉痛のような痛みは2種類
筋肉痛のような痛みを感じる場所は人によってまちまちですが、その痛みは大きく分けて2種類に分けることができます。
それぞれの症状と原因について考えてみることにしましょう。
痛みに加え、しびれ、麻痺、けいれん、ツッパリなどがあるケース
これは、運動などをした時にあらわれる、いわゆる筋肉痛の症状で、時には熱を帯びたり、炎症を起こすことがある痛みだと考えられます。
はじめは何となく感じる鈍い痛みから始まりますが、ある日突然筋肉にひきつる感じを覚えたり、強い痛みやしびれなどを感じることがあります。
この痛みの考えられる理由としては、お腹の重さに体が適応するため、体の一定の部分に負荷がかかっているからといえます。
毎日大きなお腹を支えることは、体にとっても簡単なことではありません。それまでなかったはずのものを急激に支える必要が出てくるのですから、体にはやはり大きな負担がかかっています。
筋肉など重みを支える基盤ができていれば、このような痛みを感じることはありませんが、妊娠中はそれ以前と比べ、運動量も減少してしまいがちです。
重みを支える筋肉が減少しているにもかかわらず、大きくなったお腹の重みを毎日、長時間、支えなくてはならなくなるわけですから、支えとなる部分には炎症があらわれます。
これが筋肉疲労となり、痛みとなってあらわれるのです。
筋肉痛はホルモンにも原因が
妊娠すると、出産に備えてリラキシンホルモンというホルモンが分泌を始めます。
このホルモンには骨盤周辺を支えているじん帯を緩め、胎児を大きく育てる目的と出産に備えて骨盤を開きやすくする働きがあるのですが、必ずしもピンポイントで骨盤周辺にだけ働くわけではありません。
じん帯は、骨と骨をつなぐ帯状の繊維組織のことをいい、体のあらゆる部分に存在します。
そのじん帯すべてにホルモンの作用が出てしまうことで関節周りがゆるみすぎてしまい、それを支えるために筋肉への負荷が増えてしまいます。
妊娠すると腰周辺はもちろんのこと、足やひざ、腕やおしりなど色々な部分に筋肉痛のような痛みを感じることがありますが、このじん帯を緩める作用のある、リラキシンホルモンがじん帯を緩めてしまうため、頑張った筋力にいわゆる筋肉痛が起こってしまうと考えられます。
妊娠中によく腰痛を併発する方も多いですが、腰痛の主な原因もリラキシンホルモンの増加が1つの原因ではないかいわれています。
痛みに加え、腫れやだるさ、重量感、つる、かゆいなどがあるケース
痛みに加え、下半身などを中心に腫れやだるさ、重みなどを感じる場合、むくみの症状が疑われます。
妊娠中は胎児のために、胎盤に多くの水分が蓄えられます。また、血液の流れをよくするため、血液中の血漿という液体が増えますが、この血漿は90%が水分でできているため、血液中の水分量も多くなることになります。
そのため、妊娠していない時と比べると、体の中に含まれている水分量は増えることにない、体内の水分量が多くなると、どうしてもむくみやすくなります。
妊娠中のこうしたむくみの症状は致し方ないことなのですが、これが筋肉痛のような痛みの原因と考えられます。
むくみは妊娠後期によく増える症状ですが、妊娠初期から発症する方も多く、足など全体が突っ張る感じを覚えるため、まるで筋肉痛のような痛みだと勘違いしてしまう方も少なくありません。
重力によって下半身には特に水分が溜まりやすく、筋肉があれば水分も上部に押し戻すことができ、むくむことはないのですが、もともと女性は下半身に筋肉量が少ないため、むくみやすい体質の方も多いのです。
妊娠することで、どうしても運動量が減ってしまいますので、それが要因となってむくみが躊躇にあらわれてしまうケースといえます。
下肢静脈瘤、妊娠高血圧症候群にも注意!高齢出産の方も気を付けて!
このような、妊娠中のむくみの症状が見られると発症する病気に、下肢静脈瘤や妊娠高血圧症候群があります。
下肢静脈瘤とは、足の静脈内に血液がたまってしまう病気で、足の表面に拡大した静脈がボコボコと浮かび上がってしまったり、血管がクモの巣状に浮き出てきますが、初期症状として足のむくみを気にする方が多くいます。
下肢静脈瘤は、いったん発症すると自然に完治することはなく手術などが必要なこともあり、妊娠中に発症する方は何と全体の20%もいるのです。
その原因のひとつとして、妊娠することで分泌されるエストロゲンによるものとも考えられており、このエストロゲンには、出産の際に流れ出る血液を止めるために血液を固める作用や、血液量の増加に伴い、血管を拡張させる作用があり、そのことが原因で下肢静脈瘤を引き起こしやすくなります。
血液を心臓に戻す血液の、逆流防止弁の働きさえも鈍らせてしまうため、足に血液まで貯めてしまうのです。
また、お腹が大きくなると、その大きくなった胎児、胎盤が、また腹部を流れる血管を圧迫してしまうため、より発症のリスクが高まります。
筋肉痛のような痛みを感じ、その原因にむくみが考えられる場合、下肢静脈瘤にも注意を払っておくことが大切です。
また、最近では高齢出産の方が増えたこともあり、足周辺に筋肉痛のような痛みを感じた後に下肢静脈瘤を発症する方も増えています。
高齢出産の方は特に下肢静脈瘤にも気を付けるようにしましょう。
また、強い筋肉痛のような痛みや頻回に足がつる、むくみが見られる場合、妊娠高血圧症候群の疑いも出てきます。
蛋白尿や高血圧といった症状もあり、むくみに限らず、他の検査も行うことで確認される病気ですが、妊娠高血圧症候群は発症してしまうと血液の流れが悪くなり、赤ちゃんの成長を滞らせてしまいます。
早産、死産などを引き起こす大変危険な病気です。こちらについても高齢出産の方の方が発症しやすいことが分かっていますので、注意しましょう。
症状に不安を覚えるようであれば一度病院を受診してみるのが安心です。
筋肉痛に似ている痛みでも油断は禁物
筋肉痛のような痛みは、妊娠中によくある症状です。
また、軽度の痛みも多いことから、自己判断で「問題ない」「我慢できる」と放置してしまう方も少なくありません。
ですが、この筋肉痛に胎児へ影響する病気やトラブルが隠れていることがあります。
上記で述べたような妊娠高血圧症候群などもその一つです。
特に次のような症状がみられる場合には、自己判断せずに、まずはかかっている産科に行って診てもらうことが大切です。
・一日中痛みが続く
・出血が見られる
・我慢できないほど、ひどい痛みがある
・何も手につかなく辛い
・お腹や腰周辺に強い痛みを感じる
これらのような症状がある場合、危険信号かもしれません。
流産などの初期症状は、筋肉痛のような痛みを伴うことも少なくありませんので、長時間、痛みが続く、痛みが強い場合には、必ず病院で診察を受けるようにしましょう。
筋肉痛の痛みを軽減させるためには?
あまり激しい痛みでない場合や、時間が経過するにつれ痛みが変化する場合などは、あまり心配ないケースが多く、自分で痛みを緩和させることも可能です。
どのような方法で痛みを軽減させていけばいいのでしょうか?その方法をいくつか紹介させていただきましょう。
適度な運動を
じん帯が緩んで起こる筋肉痛や、軽いむくみなどで覚える痛みの場合、軽い運動がもっとも効果的です。
適度な筋肉によるサポート力と、水分の押し上げ効果が期待できますので、さっそく運動を始めてみると良いでしょう。
ただし、妊娠中ということもありますので、激しい運動はあまりおすすめできません。妊娠中、誰でも簡単に行える運動は散歩です。
ウォーキングを、毎日20~30分を目安として始めてみましょう。たっぷり酸素を取り入れながら、少し早歩きで歩くのが理想です。
食材の買い物ついでに早足で歩いてみたり、赤ちゃん用品の買い出しに出かけてみると良いでしょう。
また、休日に公園内を散策してみるのも良いですね。ウォーキングは妊娠中のリラックス効果にもつながりますので、ぜひ試してみてください。
リンパマッサージ
筋肉痛にも、むくみにも良い方法にリンパマッサージがあります。
筋肉の疲れは筋肉に乳酸がたまることが原因ともいわれていますが、リンパを刺激することで血液の循環が高まりますので、スムーズに痛みが取れていきます。
また、むくみもリンパを流してあげることで、体内の水分や血液の循環が上がりますので、確実な効果が得られます。
お風呂に入りながら、マッサージオイルなどを使ってやさしくリンパマッサージをしてみましょう。
睡眠ケア
筋肉が傷つき痛む筋肉痛は、やはり寝ている間分泌される成長ホルモンで修復してあげることが一番の治療法となります。
そのため、十分な睡眠をとることが大切です。
また、重力の影響を受けない唯一の時間である睡眠時間は、むくみを解消する絶好の機会でもあります。
足を高くするなどして、十分睡眠をとることで、次の日にはしっかりむくみが改善されていきます。
筋肉痛、むくみとも睡眠が治療、改善のカギとなってきますので、十分眠って痛みを軽減させてあげましょう。
ストレッチ
筋肉痛のような痛みの改善には、ストレッチも効果的です。
軽くストレッチをしてあげることで筋肉の凝りもほぐれ、痛みは少しずつ取れていき、むくみも普段動かさない筋肉を動かすことで、血流などが上がり改善していきます。
痛みをこらえて無理にストレッチする必要はありませんが、心地良い程度のストレッチは有効といえますので、さっそく毎日痛みがなくなるまで続けてみましょう。
寝た状態で、足首を中心に足先を曲げるストレッチは、ふくらはぎのストレッチとなり、足先の血液を心臓へ戻すにも有効です。寝る前などにやってみてください。
温める(湯船でゆっくり入浴するなど)
じん帯が緩み、炎症を起こしていても熱を帯びている痛みでなければ、温めるのが効果的です。疲れを程よくほぐすことができます。
また、むくみによる筋肉痛なような痛みも、血流やリンパの流れを温めることで改善されていきますので、高い効果が得られます。
面倒だからとシャワーで入浴を終わらせてしまっている方も多いですが、湯船にしっかりつかって体を温めてあげましょう。
足湯やホットタオルで温めてあげるのもおすすめです。
まとめ
筋肉痛のような痛みの原因は、主にリラキシンホルモンの作用により、じん帯が緩んだことによる筋肉へのダメージの痛みと、妊娠したことによる体の水分量の増加に伴うむくみの痛みに分けることができます。
それぞれ妊娠が原因となっている痛みのため、妊婦さんならだれでも発症してしまう可能性があります。
この筋肉痛のような痛みは、妊婦さんにとって決して珍しい痛みではありませんので、過度に心配する必要はありません。
上記で挙げた改善法を試しながら、回復を待ってみると良いでしょう。しかし、改善法を試してみても痛みが取れない場合には、一度医師の診察を受けてみてください。
他の病気が潜んでいる可能性も考えられます。痛みの症状を詳しく先生に伝え、早めに治療を行ってもらうようにしてください。
監修:Etuko(産婦人科歴12年)
プロフィール:産婦人科医は「女性の一生の主治医である」と考える医師のもと看護師として12年勤務。述べ18万人の妊婦さんのサポートにあたる。筋肉、骨フェチで体幹バランス運動にて機能訓練をおこなっています。